朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第210回2017/8/4

 喜久雄の新たな舞台は、テレビだと予想していたら、そこに一枚弁天が加わるという仕掛けがあった。
 実におもしろい。

 持ち芸をとことんテレビ向きにして人気者となった西洋花菱は、それでもまだ芸人の伝統につながるものを持っている。それが、弁天になると、持ち芸を中断し、芸人としてのネタを捨てることで、テレビの人気者となった。
 こういう時代の風潮を、実際に見聞きしているだけに、なるほどと思わせられる。
 
 弁天と徳次が北海道から逃げ帰ったエピソードが、ここでまた頭をもたげた。ということは、清田誠という映画監督が重要な人物になるのか?
 このまま、いけば喜久雄が再び映画出演ということになりそうだ。だが、電話を受けたのが徳次だというところがひっかかる。ここにも何か仕掛けがあるのか?
 先が楽しみ。