朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第211回2017/8/5

 弁天からの電話を切りますと、すぐにでも喜久雄に知らせたい思いを抑え、徳次はしばし自分なりに考えるのでございます。

 これは、今まで出てきたことのない徳次だ。徳次が「自分なりに考える」なんて、驚いた。
 さあ、どんなことを考えるのか、予想のつけようがない。
 語り手は、当時の歌舞伎人気の凋落ぶりを語っている。また、喜久雄には、今では映画界から声もかからぬようになっていることも語っている。
 そうなると、歌舞伎役者としての人気を借りて、映画出演するのではだめだということだろう。また、生え抜きの映画俳優のような演技をするのもだめだろう。
 当時の歌舞伎界の実情を反映するような役回り、歌舞伎役者としては異例の生い立ちを持つ喜久雄の現実を反映するような役回り、そのようなことを、徳次は考えるのかもしれない。
 でも、そのようなことを考えて、清田誠監督に提案するのは、あまりに徳次らしくない。
 さあ、どういう展開になるか、さっぱり分からなくなってきた。