朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第212回2017/8/6

 徳次が考えていたことは、喜久雄に映画出演をどうやって納得させるかだった。
 今までに何回も喜久雄が映画出演に魅力を感じていないことは出てきていた。しかし、それほど歌舞伎に魅せられているというのは、やはり特別なことだと思う。舞台役者であろうが、歌舞伎役者であろうが、映画出演に全く興味を示さない役者は、相当な変わり者といえるのではないか。

 喜久雄がいい役に付けないだけでなく、歌舞伎自体の人気の凋落。喜久雄の映画出演の可能性。赤城洋子の自殺。これらが、どう結びついていくのか、全く先が読めない。