朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第214回2017/8/8

 『太陽のカラヴァッジョ』という映画に喜久雄が出演を決めたことが、先ず語られている。この語り振りからは、清田監督から歌舞伎役者の芸を貶されても、喜久雄が映画出演を断念することはないだろう。さらに、予想すると、『太陽のカラヴァッジョ』での喜久雄の演技が中途半端な評価で終わることもない気がする。
 喜久雄は、この映画で今までにないような演技を見せると思う。

 荒風の引退と、赤城洋子の自殺未遂には人気商売の非情さが示されている。相撲取りにしろ女優にしろ実力をつけて、人気を得ないことには話にならない。人気があっても、力が落ちれば、たちまちその世界からはじき出される。また、人気が上がったからといって、それが本人の幸福に結びつくとは限らない。むしろ、人気という化け物のために個人の幸福を犠牲にしなければならないことが多い。
 喜久雄は、この二つの出来事を通して、人気商売の非情さ、歌舞伎役者として人気を得ることの表と裏をつくづくと感じたのかもしれない。
 どちらにしても、現状の歌舞伎でいい役がつくのを待って、芸の上達に励むだけでは先が望めないと感じはじめていると思う。

 今後のストーリーへの設定が細かくなされていると思うのだが、その方向性が私にはまだ見えてこない。それに、章の題「伽羅枕」に関連するものも見えてこない。