朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第218回2017/8/12

 喜久雄は、今まで理不尽に叱られ、いじめられても不平不満を漏らさなかった。不平不満を言わないだけでなく、反省もしなかったし、弱気にもならなかった。

 喜久雄もさすがにこの理不尽には体ではなんとか抵抗するのですが、心のほうでは、やはり悪いのは自分なのではないかと弱気にもなり、もうここで土下座さえしてしまえば、これまでの悔しさや、かろうじて保っているプライドや、そんな何もかもが吹っ飛んで楽になりそうな気がするのでございます。

 その喜久雄が「弱気になり」、追い詰められている。
 そして、この語り口が興味深い。普通は、理不尽な目に遭えば、心では抵抗しつつも体の方でさっさと謝ってしまえ、となるように思うが、今の喜久雄の場合は違っている。
 喜久雄の体は、悔しさに負けず、理不尽に抵抗をし続けているし、どこかで自分の演技に自信さえ持ち続けているように感じる。

 この清田監督のやり口は、軍隊で上官が下級兵を折檻する方法を思い起こさせる。

 喜久雄に、「我慢できんのやったら、俺がいつでもどついたるし、殺したるわ」と言っていた徳次は、この時はどうしていたんだろうか。

 予想
 ストーリーは、このできごとの決着に詳しくは触れずに、場面や時間が一挙に飛ぶ。