朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第219回2017/8/13

 216回感想の予想は外れた。喜久雄はああまでされても、感情を爆発させなかった。

 監督の中でどのような心変わりがあったのか、ふと奸策(かんさく)をめぐらすように眉を動かした監督、最終的にはこの役を喜久雄で行くと言い出したのでございます。(215回)

(略)帝国ホテルでの大々的な製作発表、日本はもとより世界各国から集まった報道陣のカメラのフラッシュに(略)(215回)

 
ここまで来ても、清田監督が喜久雄を役から降ろすことを意図しているとは思えない。また、『太陽のカラヴァッジョ』が喜久雄なしで成功するとも考えられない。
 予想
①喜久雄が自ら役を降りると申し出る。その時に、他の出演者の重田らが自分たちの取り組みの浅さを認め、喜久雄を擁護する。
②喜久雄が役を降りると申し出て、監督がそれを認める。代役探しが始まる。
③喜久雄がカメラの前で、男の素の表情を初めて見せる。それこそが、監督の狙いであり、喜久雄の役者としての新しい魅力がそこに発見される。

 喜久雄は、襲名を辞退してくれという、幸子の申し出を受けたことがあった。この話の流れは、喜久雄が自ら役を降りる展開へと読者を誘っている。


 私は、何かをする前にはそのことをした結果の得と失をよく考えてから行うことを、正しいとしてきた。小説『国宝』は、昭和時代に価値があるとされていたそのような概念を「喜久雄」を通して、次々に覆していると感じる。この局面でもそれが出るか。