朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第225回2017/8/19

 喜久雄は、胸の内を誰にも明かしていない。徳次も、喜久雄が男たちに襲われたことや、その翌日の撮影の様子は知らないようだ。
 あの喜久雄が、歌舞伎の舞台に立てないのは、気力を完全に失っているからだ。
 今の喜久雄が、自分の回復の場として思い浮かべているのは市駒との暮らしだ。

 市駒の今までの描かれ方がおもしろい。
①生まれは秋田の貧しい農村。十二の頃から京都の置屋に預けられていた。(80回)
②喜久雄のお茶屋遊びが初めてだと聞き、次のように言っていた。「そやから、喜久雄さんにうちの人生賭けるってことや、なんや知らん、直感や」(90回)
③喜久雄の子を生んだが、芸妓をやめる気はなく、結婚に興味を示さなかった。

 喜久雄は、市駒の所へも、春江の所へも、ある時期を過ぎると頻繫に通わなくなっていたようだ。また、市駒も春江も、そんな喜久雄を責める様子はなかった。

疑問
①娘の綾乃の男勝りぶりが描かれていたが、それは今後に関わって来るのか?
②市駒は、伽羅枕を今でも使っているのか?