朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第回2017/8/20
 
 気になり、再登場を心待ちにしていた(206回感想)人物が出て来た。
 竹野、テレビ、こうなるとすぐ、喜久雄のテレビ出演を予想するが、そこにはもう一段仕掛けがあるかもしれない。

 前回の感想で、市駒を取り上げたが、春江と市駒の共通点に気づく。
①出生や生い立ちについては詳しく語られていないが、貧しい子供時代を送り、中学校卒業するかしないうちから、水商売の世界に身を置いている。
②自分の境遇に悲観をしている様子がない。それどころか、春江は売春をしてでも逞しく生きて行こうとしている。
③喜久雄に直感的に惚れこんでいる。だが、喜久雄と結婚し、家庭を作るという考えはない。
 これらの感覚は、昭和時代の女性の常識的な生き方と正反対だ。

 私は、俊介とともにいなくなった春江については次のように感じている。
 春江は、喜久雄を嫌いになったり、喜久雄から俊介に気持ちが移ったのではない。出奔前後の俊介が、喜久雄よりも、春江を必要としていたから俊介と一緒に身を隠したのだ。俊介の状態が落ち着き、春江も身を隠さなくともよくなれば、気持ちは喜久雄の所へ戻る。
 そして、喜久雄には、愛し愛される女性が何人いても不自然ではないと感じる。