金沢のクラブで、地元の名士から踊れと言われて、喜久雄はその名士を殴りそうになり、徳次に止められた。(207、208回)
 その騒動の後、喜久雄は、俊介ならあの場で踊るふりでもして、なんなく乗り切ったのではないか、と言っていた。喜久雄は、自分は三代目を継いだところで「一本の木」だが、俊介は生まれた時から丹波屋を背負っているので、「山」だと考えていた。(209回)
 
 喜久雄は、今までに美しい娘や遊女役を演じることはできた。しかし、狂女や化け猫を見事に演じることができるであろうか?
 もしも、今の俊介が『太陽のカラヴァッジョ』で歌舞伎の女形だった兵士を演じろと言われたら、どうであったろうか?喜久雄とは、違う反応をするように思う。
 その辺りに、温泉街の舞台に姿を現した俊介と東京の舞台への意欲を失っている喜久雄の役者としての違いが出て来るように感じる。

 それにしても、俊介登場の段取りは圧巻のおもしろさだ。228回感想で触れたが、丹波屋の状況はこれ以上悪くなりようがなかったのである。
 仮に出奔中の俊介が莫大な借金を背負わされていたとしても、幸子も喜久雄もそれを肩代わりできる状況にはない。ある意味、俊介が迷惑をかける気遣いはないのだろう。