朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第233回2017/8/27

 歌舞伎役者が、妻に求めるものは、元気な頃の幸子のような女性であろう。幸子が白虎にやったような世話を、市駒は喜久雄に対してできないであろう。喜久雄の方も、市駒に歌舞伎役者の家を仕切ってもらおうとは考えていないと思う。
 だからこそ、進むべき道を見失っている今の喜久雄にとって、安心していられる所が市駒と綾乃のいる家だと感じる。
 ここはくつろいでいられる家ではあるが、ここの生活から喜久雄の新しい道が開けることもないだろう。

 徳次が、親子水入らずの所へわざわざ来るからには、喜久雄に何か重要な知らせを持って来たはずだ。