朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第245回2017/9/6

 たとえ、から元気であろうといつも威勢のいい徳次だが、さすがに煮詰まっているようだ。
 俊介が戻って来て、幸子は喜んだろうし、孫の一豊を見てさらに喜んだと思う。喜久雄も徳次も、俊介との再会に興奮した。しかし、喜久雄がいい役につけない状況に変化はなさそうだ。 
 そして、万菊を驚かせた俊介の化け猫の芸については、喜久雄には一切話されていない。

 もしも、竹野のプラン通りに俊介復活の筋書きがテレビで取り上げられたとしたら、どうなるだろう?恐らくは、喜久雄には何も知らされずに、いきなり番組が放映されるだろう。その番組では、喜久雄は完全な悪役として印象づけられる。視聴者も歌舞伎の関係者も、その番組で描かれていることを事実として受け止める。
 復活した俊介の立場と、見世物小屋で磨いた芸は、世間からも歌舞伎界からも同情とともに絶賛されると思う。