朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第248回2017/9/12 

 痛めつけられて、歌舞伎の舞台に立つことができなくなったが、綾乃と市駒と時間を過ごすことで、立ち直った喜久雄だった。その喜久雄を、『太陽のカラヴァッジョ』の時よりも、重く厚いものがじわじわと責め上げ始めたようだ。
 「凄惨を極める暴行を受ける」歌舞伎の女形だった兵士よりも、もっと辛い目に遭わされる襲名した歌舞伎役者が、喜久雄の今後だと思う。