朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第249回2017/9/13 

 喜久雄と俊介は、対等の関係になったことがないし、これからもなれない。
 喜久雄が初舞台を踏む前は、稽古で同じように扱われていても、御曹司の俊介と素性の分からない喜久雄にはあまりにも歴然とした差があった。『娘道成寺』で、二人揃って人気が出た時は、喜久雄は歌舞伎役者の端くれとして認められたというだけで、俊介の御曹司の立場は揺るがなかった。
 それが、白虎(半二郎)の交通事故による代役で、立場が大逆転した。その逆転は、俊介の出奔、喜久雄の襲名で更に固まった。
 この二人は私的な面では和解しても、芸の上では常に争い続ける関係に運命づけられている。