朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第251回2017/9/15

 女、とりわけ母の意志が、物事を決めている。
 マツがいなければ、喜久雄に歌舞伎の素養は育たなかった。幸子がいなければ、俊介と喜久雄の関係は保たれなかった。東京の舞台で役のつかなくなった喜久雄を立ち直らせたのは、母となった市駒だ。俊介がこの十年余り生きてこれたのは、春江がいたからだろう。
 その春江が母となって、以前の面影のない幸子とともに、大阪の屋敷にいる。俊介の舞台復帰の前に、春江が丹波屋の若女将として、動きそうだ。
 背に刺青を背負い、何度も落ちる所まで落ちながら、強く生きている春江。なんとも、魅力的な女で母だ。