朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第252回2017/9/16

 常識のある嫁なら、夫俊介に言って、義母幸子の度を越した信仰に意見をさせるだろう。春江が自分から動くとしても、先ずは義母へ直接話をするだろう。そうしないで、新宗教の親玉幸田との直接対決を春江は選んだ。
 春江は、どう出るか?威勢のいい啖呵で喧嘩腰になるか?それとも、何を言われてもめげないで、粘り強く応酬するか?
 いずれにしても、ここで春江の本性が描かれるように思う。
 マツは、病気の妻がいる権五郎の所に入り込んだ。権五郎が死んでからは組を潰してしまって、女中にまで落ちぶれた。義理の息子の喜久雄が役者になってからも自ら進んで働いている。表面を見ると、マツはそういう女だ。しかし、マツの表面と内面は違う。
 春江も、表面と内面は違うと思う。