朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第254回2017/9/18

「俺な、逃げるんちゃう。……本物の役者になりたいねん」
 こんな思いだったとは!予想できなかった。お勢さんが言うように、俊介は家を出ても自立できないと私は思っていた。白虎(半二郎)の言葉通り、逃げ出したと思わされていた。
 この言葉通りに俊介が行動していたなら、私の予想238回感想は、大外れだ。それどころか、辻村の世話になっていたのは、俊介ではなく、喜久雄の方だったことになる。
 俊介のこの言葉を聞いて、春江が一緒に身を隠したとすると、春江の本性についても、前回の感想「食うため、大切な人を生かすためには、理想や体裁などにとらわれない生き方」も大間違いだったことになる。春江は、俊介を「本物の役者」にするためにこの十年余りを過ごしてきたのであろう。
 すごく、おもしろくなってきた。