朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第256回2017/9/26

 この作品の時代は敗戦後の昭和だ。敗戦後の昭和は、民主主義と経済発展の時代だと思っていた。
 『国宝』に描かれているのは、江戸時代の庶民が大切にしていた義理と人情であり、西欧文化とは無縁の伝統芸能に生きる人々だ。
 私が生きてきた昭和は、本当に民主主義が根付いた時代なのか。昭和は、企業戦士と呼ばれる男たちが発展させた時代なのか。
 少なくとも、働く男たちが戦後の経済を発展させたというのは、浅い見方だと思う。家庭を顧みることなく、働き続けた男たちは、昭和の女たちがいればこそだったと、この小説を読んで感じる。
 春江も幸子も昭和の女の典型だと思う。常識的な既成の視点を変えると、新しい昭和時代が見えてくる。