朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第263回2017/9/27

 見世物小屋での俊介は、身震いするような冷気を、舞台から客席へ吹かせていた。竹野は、その演技に、まるで見ている自分までその臭ってくるような恨みに呑(の)み込まれてしまいそうになった。(230回)

 万菊は、俊介に向かって、「(略)‥‥あなた、歌舞伎が憎くて憎くて仕方ないんでしょ」と言った。(240回)

そして紛れもなくこの凄(すさ)まじい緊張感の源泉は俊介であり、とてつもなく危険な何かが、そこで踊っているのでございます。

 
恨みと憎しみがそこにはあると思う。