朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第265回2017/9/29

 三代目半二郎の反応は、見事だった。

「そんなわけないだろ!」
 そう叫び返そうとした自分の声が、たった今、駐車場に反響した記者の声と、まるで一緒なのでございます。
 俺は、役者だ。こんなところであんな声出してたまるか。


①出そうとした声を、出す前に聞いている。
②興奮しているにもかかわらず、その声の調子を分析している。
③声に出すことを自制している。

 三代目さん、こういう時は、何もせずにいつも通りにしているのも芸の内ですよ。特に、記者連中にはね。