朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第272回2017/10/6 

 市駒になんて言うんだ。綾乃はどうなるんだ。それもあるが、東京の歌舞伎の舞台で一からやり直すと言っていた決心はどこへ行ったんだ。 
 が、この方が、いかにも喜久雄だ。綾乃と遊び、市駒や徳次と穏やかに過ごしているのは、喜久雄には似合わない。


 俊介にとっては、どんなに世間の注目を浴びようが、万菊との舞台が大成功に終わろうが、そんなものは一時の人気でしかない。