朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第275回2017/10/9

 「(略)朝から晩まで、こいつは舞台のことしか頭にねえんだよ。おまえが病気したって、いくら苦しくったって、いくら泣いてすがったって、こいつは舞台に上がるんだよ。おまえのことなんて……」
 
 吾妻千五郎のこの言葉が、歌舞伎役者の本質を言い表している。

 歌舞伎役者、白虎・二代目半二郎について思い返してみる。
視点1
①白虎の襲名披露の舞台で倒れ、その後舞台に戻ることなく死んだ。
②多額の借金を遺した。
③実の息子と和解できなかった。
④喜久雄には、実の父の死の真相を伝えなかった。

視点2
①倒れるまで、舞台に立ち続け、歌舞伎の発展のことだけに力を注いだ。
②喜久雄の才能を見抜き、我が子を差し置いて、喜久雄の芸を磨いた。
③喜久雄だけでなく、マツや徳次のことを陰から支えた。
④死の間際の叫びに、俊介への思いが表れていた。

視点3
①歌舞伎の舞台を観る楽しみがなければ、喜久雄とマツの生き方は違うものになっていたはずだ。
②歌舞伎は、時代を遡り、多くの人々、とりわけ庶民に夢の世界を提供し続けている。
③歌舞伎の伝統を守ってきたのは、時の政府や興行主ではなく、白虎のような歌舞伎役者だ。


 役者は、人気商売などと気軽に言ってしまうが、人々に楽しみを与えてきた功績は計り知れないと改めて思う。これは、歌舞伎だけでなく現代劇、映画、テレビ、全ての役者に言えることであろう。