朝日新聞夕刊連載小説・津村記久子作・内巻敦子画『ディス・イズ・ザ・ディ 最終節に向かう22人』第34回 2017/9/8 第7話 権現様の弟、旅に出る③

あらすじ
 
神楽を舞い終わって、姫路と遠野の試合を観ていた神楽のメンバーたちは、次第に遠野を応援し始める。遠野は先制されるが、終盤に得点して引き分けに持ち込んで試合を終える。遠野が負けると思っていた司朗や壮介は、引き分けなのに遠野が勝ったような感覚を味わう。
 この試合をきっかけに、壮介たちは地元の試合だけでなく、遠野の遠征にもついていくようになる。遠野FCは、さんざん点を取られたあと後半に追いつく展開をするチームだ。司朗は、その追いつく感覚が忘れられないと言う。壮介は、司朗ほど魅了されてはいなかったが、サッカーを観ていると、職場でのうっとうしいことを忘れることができた。
 ところが、職場では、西島さんの壮介への当たりは以前にも増してきつくなっている。壮介が遠野FCを応援していることを知った西島さんは、得意先での話題で、壮介の遠野FC応援のことを嘲るようになる。

感想
 
サッカーという競技にそれほど興味がないのに、地元のチームを応援するようになる経過がよく分かる。
 生まれ故郷といっても、そこから出ようと思えば、それほど大変なことではない。むしろ、経済的な発展が見込めない地元の場合は、そこに残る方が、むずかしい。そういう時だからこそ、地元に残っている人や戻って来た人は、何かのきっかけがあれば、地元のサッカーチームを応援したくなる気持ちが4わくのであろう。
 生まれ故郷のどこに愛着を持つか、そして、その気持ちを持ち続けるか、現代ではむずかしいことだと思う。
 要するに、働く年代の人々は、地元であるかどうかに関係なく、経済面で発展する地域へ集中するのが、今の時代なのだと思う。