朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第279回2017/10/14

その一
 意外な方向へ進んだ。喜久雄が歌舞伎以外で新境地を開くとしたら、テレビか映画だろうと思っていた。
 吾妻千五郎の反応も意外だった。彰子と喜久雄のことを隠し通すか、彰子の言いなりになるかだと思っていた。

その二
 俊介と喜久雄の間に今までにないライバル心を感じる。単に好敵手というだけでなく、どうしても勝ち負けの決着をつけなければならない対戦者同士になっている。
 同じ演目の同じ役で、俊介と喜久雄は、芸の優劣、人気のあるなしを争うことになった。

その三
 丹波屋に戻り、我が子一豊に初舞台を踏ませた俊介なのだが、なんとなく不安な影を感じる。彰子と共に暮らし、役者廃業寸前を救われた喜久雄なのだが、望むような役者の道を進んでいる感じがしない。

 代役と襲名を、喜久雄が手にした。春江と復帰後の舞台の評判を、俊介が手にした。そして、「八重垣姫」の役作りで、二人の間にはっきりとした勝ち負けがつくのだろうか?