朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第282回2017/10/17

 喜久雄は、幸子に言われて、一度襲名を断ろうとした。また、死を前にした白虎が、俊介の名を呼んだ場面にいた。そして、俊介が戻って来た丹波屋をあさっりと去っていた。
 それなのに、「花井半二郎」の名を背負い続けたいと思う気持ちが、まだよく分からない。

 俊介は、万菊と共演した復帰の舞台の後も順調に主役を勤めていた。だが、万菊との舞台には満足していないようだった。また、松野という男の存在が不安を感じさせる。

 喜久雄は、彰子を騙した。その彰子に、思いがけない方法で救われて、新派にいる。
 俊介は、竹野と万菊に救われた。竹野の策略で、喜久雄を悪者とすることによって、人気を得ている。
 二人ともが、本人同士の気持ちとは裏腹に、対立関係だけが騒がれている気がする。