朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第286回2017/10/21

 春江の今の境遇は、春江が言う通り、本人が想像もしなかったような変化だ。弁天もまたそうであろう。
 それなのに、二人が話すと、昔通りの「春ちゃん」と「悪ガキ」に戻っている。
 
 万菊に稽古をつけられ、喜久雄と俊介は、それぞれが舞台に立っているようだ。しかも、二人ともが評判になっているらしい。
 喜久雄と俊介は、昔の関係に戻るどころか、役者としての勝ち負けをはっきりさせようとして、激しく競い合っているのだろう。