朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第292回2017/10/27

春江が身ごもったのは、大阪を離れてそろそろ一年になるころでございました。(今回)

(略)この同時襲名を受けるということは、出奔して三年になる俊介の役者人生を完全に見限るということにもなるのでございます。(第七章出世魚13 163回)

 喜久雄の襲名以外に、俊介と春江と豊生の大阪行きを阻んだものがあるということか?
 いや、子が生まれたのが家を出てからほぼ二年目で、豊生が一歳になる頃に大阪に戻ろうとしているのか?
 後者だとすると、大阪へ戻る途中に、白虎、半二郎の同時襲名のことを知ったことも考えられる。俊介は、父の眼の病のことを知らないであろうから、同時襲名のことを聞き、自分が跡継ぎとして完全に見捨てられたと思うであろう。