朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第299回2017/11/3 

 喜びを抑えた行動から、俊介の心からの喜びが伝わってくる。復活の舞台で、劇評を知った時とは大違いだ。
 
 この受賞は、俊介にとってどんな価値があるのか。
①俊介と喜久雄の競い合いとなった『八重垣姫』の舞台に優劣がついた。興行面の人気では、喜久雄が勝っていたが、その芸術性で俊介がはっきりと認められた。
②俊介は、役者としてなんとしても喜久雄に勝たなければならないと思い続けていた。復活後の舞台では俊介の評判が高かったが、喜久雄は三代目半二郎の名を変えないし、新派のスターとなっていた。それが、今回の受賞ではっきりと俊介の勝ちが決したのだ。
③俊介は、喜久雄と競う気持ちはなかった。自分が「本物の役者」になることが、喜久雄と昔のような仲に戻れると思い、精進してきた。自分の芸が認められた今、喜久雄に自分の本心を打ち明けられると思った。
 さて、どうであろう。私は、②のような気がする。