朝日新聞夕刊連載小説・津村記久子作・内巻敦子画『ディス・イズ・ザ・ディ 最終節に向かう22人』第39回2017/10/17 第7話 権現様の弟、旅に出る⑧最終回

あらすじ
 試合の後半が始まる前、親子連れ(内藤さん)の娘さんの話を、壮介が聞いている。娘さんは、応援
している姫路FCの牧原選手を心配している。牧原は、試合中の怪我から復帰した選手だった。娘さんは、姫路に勝ってほしいが、それよりは牧原と選手みんなが無事でいてほしい、と言う。壮介もその娘さんの願いが叶うように願った。
 前半0-0で、遠野は後半に1点を先取するが、姫路に追いつかれる。だが、終了間際に得点し、2-1で遠野が勝つ。引き分けの多い遠野は、最終節で今シーズンの初勝利をあげた。
 スタジアムを後にする壮介は、柳本さんを見舞い、権現様の弟で柳本さんの頭を噛んであげようと思う。
 柳本さんは、権現様の弟のことはネットで見てよく知っているが、その中に壮介がいることを知らない。

感想 
 内藤さんの娘さんは、牧原選手が無事でありますようにと願った。壮介は、その娘さんの願いが叶うようにと願った。
 柳本さんは、怪我が早く治るようにと願っている。壮介は、その柳本さんの願いが叶うようにと自分が思っていることを柳本さんに伝えたいと思った。
 そこに、権現様の弟で、頭を噛んであげるということの意味がある。頭を噛んでほしいと思う人には、叶えたい願いがあり、それを応援するのが、壮介と権現様の弟がしていることなのだろう。
 郷土芸能の神楽を舞うことも、地元のチーム遠野FCの試合に通うことも、他の人々の願いに共感して、それを応援することが楽しみになったからだろう。

第七話の終末近くに次の文章がある。
 「(略)あらゆる僥倖の下には、誰かの見えない願いが降り積もって支えになっているのではないかと、壮介はこの九か月を過ごして考えるようになっていた。」
 こういう考えをもつなら、不運を嘆く暮らしから抜け出せると感じた。