朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第303回2017/11/7 

 徳次とマツ。
 映画館で、殴られながら、喜久雄を捕まえようとする警官の足にしがみついた徳次。自分のものだった屋敷で女中をしながら喜久雄に仕送りをしたマツ。
 喜久雄は、二人に恩返しをしたいと思っていただろう。
 だが、パリの喜久雄が、マツと徳次のためを思って連れて来たのではないと思う。喜久雄は、徳次がいなくては困るし、マツには自分の舞台を見せたいだけだと感じる。
 恩を受けた、恩に報いる、などという言葉では表せない感情で、それぞれが結ばれている。