喜久雄のパリ公演は大成功で、帰国しても評判は高まるばかりだ。その一方で、俊介の舞台も通好みの芸として一目置かれるようになった。
 二人ともが役者として、成果をあげ、注目を浴びている。

 喜久雄が、このまま新派の役者として演じ続けるのか、疑問だ。
 喜久雄を娘の婿として、許していない吾妻千五郎に、跡継ぎがいないはずだ。いつかは、千五郎も喜久雄と彰子を許すだろうが、それは、喜久雄にどんな変化を与えるだろうか。
 また、万菊が予言した喜久雄の美貌が芸の邪魔をするという面が、これから表れると思う。
 さらに、辻村の名を聞くと、父、権五郎の死の真実について、どうなるかが物語の要として浮かび上がってくるように思う。

 俊介は、豊生を失ったあと数年におよぶ荒みきった生活を過ごしたとある。どんな風な生活で、どんな人と付き合ったのか。また、その後に旅役者となるが、そこにはどんなきっかけがあったのか。そのころに、松野なる老人が絡んできそうだ。

 春江は、今や丹波屋の女将として活躍しているが、大阪のオンボロアパートのころのことを懐かしく思っている。また、長崎で喜久雄と一緒に刺青を入れる痛みに耐えながら、この刺青を後ろ指さして笑う人たちに負けるものかと思っていた。(289回)
 これは、春江の過去とこれからに、どうつながっていくのか。

 連載小説『国宝』の山場は、まだまだたくさん残されている。