朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第310回2017/11/15

 喜久雄は実の父親だ。さらに、喜久雄と母、市駒が結婚をしていないことを知っている。父は、どん底の時には、母の所に来て、自分を可愛がった。マスコミが隠し子などと騒ぎ立てた時には、父は、母と自分を守ってはくれなかった。父は、新しい女を妻とし、新派のスターとして大人気を得ている。そんな今、父は、母と自分を見向きもしなくなっている。
 綾乃がこのように、喜久雄を見たとしても無理はない。
 徳次は、父の付き人で、母の古くからの知り合いだ。徳次は、喜久雄がどうであろうと、いつも自分のことを可愛がってくれてきた。
 綾乃は、徳次と喜久雄の違いを感じているだろう。

 いずれにしても、綾乃が荒んでいる原因は、父、喜久雄のことだけではないと思う。