朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第314回2017/11/19

 そこに徳次は、極道育ちという自分の血に持つ、逆の意味でのプライドを喜久雄に見たのでございます。

 極道の血を持つからには、力のある親分の威光を借りて、物事のかたを付けることはしない、というプライドなのだと感じる。
 さらに、喜久雄も徳次も、辻村の力を借りてトラブルを退けても、それが本当にかたを付けたことにならないのをよく知っているはずだ。辻村の名を出せば、それは辻村に借りをつくったことになるのだ。

 肉親のいない徳次にとって、喜久雄も綾乃も肉親に等しい、いやそれ以上の存在なのだ。だからこそ、綾乃のことで、辻村に借りをつくりたくはないのだろう。