朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第319回2017/11/24

その一
 辻村の恩を感じていたから、喜久雄は二十周年パーティーでの舞台を引き受けた。しかし、喜久雄が、辻村に対して親近感を持っていたとは思えない。それなのに、警察に踏み込まれた場で、辻村を慕っているような行動を、喜久雄はなぜしたのか。しかも、辻村をかばうかのような行動で、注目を浴びた。それは、徳次の言う通り喜久雄にとっていいことは何もないはずだ。


その二

 無遠慮に強い照明は、力尽きた白鷺が美しければ美しいほど、魔法のとけた無残な姿を浮かび上がらせるのでございます。

 以前に、万菊は、俊介に向かって喜久雄のことを次のように言っていた。

 「(略)でもね、ずっと綺麗な顔のままってのは悲劇ですよ。考えてごらんなさいな、晴れやかな舞台が終わって薄暗い倉庫の隅に投げ置かれたって、綺麗な顔のまんまなんですからね。(略)」(284回)

 
上の二つの文章が重なって来る。
 
このことは、喜久雄の新派でのカリスマに、限界がみえてきたことを暗示しているような気がする。