朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第320回2017/11/25

その一(予想)
①この騒ぎで、喜久雄は新派を去ることになる。新派を去り、歌舞伎界に戻ることもできず、喜久雄は役者として再び窮地に陥る。 
②この騒ぎは、俊介と春江に及ぶ。特に春江の刺青が、春江を恨んでいる新宗教の連中からマスコミに流される。

その二
 これまでの喜久雄の人生は、運命のなすがままだったように描かれている。
 だが、今回の喜久雄の出自については、いつかは明るみに出ることは必然だった。たとえ、辻村からの出演依頼を断っていても、喜久雄が世間から注目されればされるほど、その生い立ちと、暴力団との関係はどこかで暴かれるに違いない。
 侠客の父をもつ喜久雄が、役者になったのはめぐり合わせや運だけではない。そこには、喜久雄の意志が色濃く働いていた。また、辻村の依頼に応じたことも、喜久雄の明確な意志だった。
 喜久雄がこの窮地から這い上がるとしたなら、今までのように運に救われるようなことはないと思う。

 その三
 俊介の今の歌舞伎界での人気とよい評価は、自分の芸の力だけで築いたものではない。
 竹野の興行面の力と、万菊の後ろ盾があったからこそだ。したがって、今のままでは、真に二代目半二郎を継ぐ役者とはなれないであろう。