朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第326回2017/12/1

 第十三章 Sagi Musumeが終わった。十二章に続いて波乱の章だった。

その一

 喜久雄は、どう見ても得にならない辻村の頼みを聞いた。その理由は、苦しい時に辻村に世話になったからだった。
 自分の人気や評判と世話になった人の顔を立てることを、秤にかけて、世話になったことに報いる方を選んだのだ。

 こういう二者択一でいけば、親の仇と、世話になったことのどちらを選ぶだろうか。どんなに世話になった人でも、親の仇とわかれば、仇を討つことを選ぶのが義理だと思うが‥‥

その二

 名優は、自分の素質を最大限に伸ばすことを求められると思う。同時に、自分の素質にはないものを獲得しなければならないと思う。
 喜久雄の素質は、女形としての美しさだったではないか。舞台裏での喜久雄の美しさは、光君としての舞台上でも存分に発揮されるのだろうか?