国宝 あらすじ 301~325回 第十三章 Sagi Musumek

 喜久雄と俊介は、『本朝廿四考』の八重垣姫で同じ月に同じ役をやり、二人ともに芸術選奨を受賞した。(第十二章)
 芸術選奨を受けた直後に、俊介は『鷺娘』で世間の喝采を浴びる。竹野は、喜久雄に、俊介に対抗して斬新な形で『鷺娘』をやってもらえないかと話をもちかけてくる。
 喜久雄は、自身のアィデアと彰子の人脈で、世界的に名の知れたオペラ歌手リリアーナ・トッチとの共演を実現させる。この東京公演はマスコミの話題をさらう。その勢いで、パリでの公演が決まる。パリでの公演も予想を超えた大成功。フランスから凱旋帰国しても喜久雄の人気はますます高まる。
 そんな折、九州の辻村が、喜久雄に、辻村のパーティーで『鷺娘』を踊ってほしい、と頼む。徳次は、そのパーティーが警察の暴力団取り締まりの対象になっているといううわさもあり、喜久雄に辻村の頼みを断るように勧める。しかし、喜久雄は、辻村から受けた恩は返さなければならないと、辻村の頼みを承諾する。

 この徳次のもとへ市駒から電話がかかってくる。市駒は、娘の綾乃(十四歳)が暴走族の男と付き合っていて、家に帰らないと徳次に告げる。徳次は、直ぐに京都に向かい、綾乃が連れ込まれている所に乗り込み、綾乃を救い出す。しかし、綾乃を取り戻そうと、暴走族の男が綾乃のいる病院に乗り込んできた。徳次は、この男を殴って追い返す。数日後、殴られた男を連れて、暴力団の組員たちがやって来た。徳次は、この組員たちに事務所に連れて行け、と自分から言う。
 暴力団事務所では、組の親分が徳次の命がけの覚悟を察し、指をつめることで、綾乃の件はなしにすると言う。
 徳次は、自分の指に立てた鑿に体をのせた。

 辻村のパーティーで、喜久雄の舞台の美しさに客は息を呑んでいる。ところが、舞台の途中に辻村逮捕のために警察が踏み込んできた。この辻村逮捕劇は、暴力団撲滅の大々的ニュースとなる。その場にいた喜久雄にも世間の批判が集まり、喜久雄の長年の暴力団と付き合いと、喜久雄自身の出自がスクープされる。これを受けて、民放各局、一般企業が喜久雄だけでなく、新派への協賛からも辞退するという流れになる。このことで、喜久雄は歌舞伎界からも新派からの追われた状態になる。
 一方、徳次に救われた綾乃だったが、再び夜の街を徘徊するようになり、暴走族よりももっと質の悪い人種と付き合い、薬物に手を出そうとしたところを補導される。市駒からこの連絡を受け、喜久雄は徳次を伴い、京都に飛ぶ。憔悴しきった綾乃を見て、喜久雄は、「誰に何された!」と叫ぶ。その喜久雄に向かって、綾乃は「あんたに、捨てられたんや!」と叫び返した。
 喜久雄は、綾乃を東京に連れ帰り、自分のマンションで一緒に暮らし始める。しかし、喜久雄と綾乃とは殺伐とした雰囲気にしかならない。
 春江が、綾乃を預かりたいと喜久雄に連絡を寄こす。春江は、大切な人(俊介)が薬に苦しんでいたときに、必死で闘った経験があると言う。春江のところで、綾乃は元気を取り戻し始める。

 出演する舞台を失った喜久雄と彰子へ、突然、彰子の父、吾妻千五郎から家に来るようにという電話が入る。それまで、決して二人の結婚を許さなかった千五郎の口から出たのは、喜久雄に歌舞伎に戻ってこい、というものだった。千五郎は、喜久雄が貧乏くじを引く覚悟で、世話になった親分さんの顔を立てたことを大したもんだと言い、喜久雄を歌舞伎界に復帰させた。
 三友の竹野は、歌舞伎界に復帰した三代目花井半二郎(喜久雄)と花井半弥(俊介)共演による『源氏物語』の公演を発表した。