朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第332回2017/12/7

 エンタメより文芸作品の価値が高いとは思わない。そこをおさえた上で、小説『国宝』が、単なる娯楽作品ではなかったといえる。昭和に生きた歌舞伎役者とその周囲の人々を描く小説だと思う。324回感想

 それは、竹野の描き方にも表れている。竹野は、歌舞伎は退屈で、歌舞伎役者は世襲でしかないと言い切っていた。しかも、俊介を発見した時はテレビ業界で働いていた。さらに、俊介の復活のために、喜久雄のゴシップをあくどく流した。
 その竹野だが、彼がいなければ、俊介の復活はなかったし、彼が動かなければ、万菊と俊介の共演も実現しなかった。さらに、『鷺娘』の同時公演は彼の企画だった。新派から歌舞伎に戻った喜久雄と、復活後さらに芸を磨いた俊介、二人の人気の高まりの陰には、常に竹野がいた。
 どんなに優れた芸の持ち主でも、有能な興行面を支える人、プロデューサーなしに成功しないことは、現実の芸能界では周知のことだ。そこをうまく描いていると感じる。

 この当時、どこよりもバブルを謳歌(おうか)していたテレビ業界から歌舞伎役者への誘いも多かったはずで、実際に高額なギャラに飛びついた役者たちもあったなか、
「あの二人は舞台に立たせといてやろう」 と、経済的にもいろいろと助けていたのが竹野だったそうでございます。

 
また、バブル景気のことを押さえている点も、昭和を描く場合には欠かせないことだ。