朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第339回2017/12/15

「ほんま長いことかかったけど、坊ちゃん、とうとうあの鶴若に勝ったんやな」

 徳次がこう言っているのだから、徳次と一緒に感慨に浸りたい。しかし、喜久雄が鶴若に勝ったと、手放しで喜ぶ気持ちになり切れない。
 今の喜久雄は、芸の上でも人気の上でも鶴若を超えているのだろう。そうではあるが、鶴若の失敗は金のことであり、歌舞伎役者として「勝った」とは言えないように思う。