朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第341回2017/12/17

 ひどい仕打ちを受け、「死ね」とまで思った相手であり、今もこちらからの丁寧な挨拶に返事もしない。そんな相手でも、あまりにひどい扱いを受けているのを見ると、人としてかわいそうに思う。それが人情というものなのだろう。

 もしも、私が喜久雄の立場なら、鶴若をことさらに嘲笑うことはしないと思う。そして、見て見ぬふりだろう。
 鶴若にとっても、中途半端な同情をされるよりは、笑われるか、無視される方が気が楽だろう。