朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第347回2017/12/24

 いよいよ『土蜘』の幕が上がる。竹野の策略の力も借りて、劇的に歌舞伎の舞台に復活した俊介、花井半弥は、『源氏物語』を、喜久雄、三代目花井半二郎との共演で成功させた。その俊介が、万菊や喜久雄の力を借りずに、役者としての真価を、この『女蜘』の役で問われる。
 この『女蜘』は、出奔中の俊介が、見世物小屋で鬼気迫る演技を見せていた『化け猫』の役に共通するものがあるように感じる。

 二代同時襲名についての幸子の気持ちは十分に分かる。こういう時に、できることと言えば、現代と言えども限られている。幸子と春江、この二人も俊介の出奔という出来事がなければ、ただ顔見知り程度の関係であったろう。