朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第356回2018/1/1

 連載で言うと、一年前が、権五郎の新年会の様子だった。賑やかで、盛大で、喜久雄と徳次の余興も大成功だった。
 俊介の新年会も、盛大で、華やか、家族、弟子、使用人皆揃って、客を迎えている。舞台裏で倒れた源吉も元気な声を出している。
 素直に、物語の先の流れを思うと、権五郎の新年会の時と同じように、俊介の新年会も大事件につながることになる。
 果たして、そうなるだろうか。この物語の今までの流れは、逆流また逆流の連続でもある。

 昭和の頃は、極道の一家や歌舞伎の名門だけでなく、一般の家庭にもスケールこそ小さくなるが、新年の儀式や新年会があった。私なぞは、そういう家庭や地域の習わしを次の世代へ継承することができなかったという思いにかられる。