国宝 あらすじ 326~350回 第十四章 泡の場

 光源氏と空蝉などの女たちを、喜久雄と俊介が日替わりで演じるという趣向の『源氏物語』は、大成功を収める。劇評家の藤川教授は、「半二郎と半弥の二人は、それぞれの仕方で必死に歌舞伎に食らいつき、今やその歌舞伎に取り憑かれてしまった」と評した。
 俊介と喜久雄は互いに距離を置いていたが、この『源氏物語』の共演をきっかけとして、二人は昔に戻ったように酒を酌み交わすようになる。
 時代は、のちにバブル景気と呼ばれる時期(一九八六年十二月~一九九一年二月)で、二人が共演した『源氏物語』の初演が一九八六年の十二月である。このバブル景気の時期と重なるように、二人は休演する月もほとんどなく、次々と絶賛される演技を見せる。
 大評判の『源氏物語』の次の演目は、『仮名手本忠臣蔵』で、この演目は、喜久雄と俊介の二人が相談して実現にこぎつけたものだった。

 この時期は、喜久雄の遊び方も豪快で、徳次に車を買えるほどの金をポンと出し、母マツのためにハワイにコンドミニアムを買ってやる。また、綾乃とハワイで遊び、父と娘のわだかまりが取れたというわけにはいかないが、一緒にドライブできるようになる。
 一方、俊介の方は、丹波屋の屋敷を建てるための土地を購入する。
 
 その頃、徳次と弁天と共に銀座のクラブで遊んでいた喜久雄は、弁天から、鶴若が金に困り、お笑い芸人のテレビ番組に出演することを聞く。その番組では、コントとは言え、鶴若はひどい扱いを受けている。喜久雄には、鶴若から受けた仕打ちに対する恨みがある。だが、そのテレビ番組を見た喜久雄は、恨みを忘れ、鶴若に対するひどい扱いを控えてくれるように、弁天を通して、その番組のお笑い芸人に頼み込んだ。

 俊介の方は、『土蜘』を新趣向で演じる『女蜘』の準備に取り掛かっている。
 喜久雄の方も、今の成功に満足しているわけではなく、『阿古屋』をやろうと努力している。
 
 俊介の『女蜘』が成功した暁には、半弥を息子の一豊に、自身は白虎にという同時襲名の段取りが進んでいる。同時襲名へ向けて、春江も幸子も必死で取り組み始める。また、俊介は、すでに七十を超え、病を抱える源吉を、同時襲名の折に、幹部役者にしようと思っていた。