朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第362回2018/1/8

ぜんぶ坊ちゃんのお陰や。

これまでの俺の人生はな、ほんまに坊ちゃんのお陰で最高やってん。

 他人(ひと)に感謝している。
 自分の人生に満足している。
 徳次のこの心根が、人生の裏側を毎日見せられている女たちの心を掴んで離さないのだ。徳次の母についても思い出しておこう。

 本妻のほうは、その子供たちがすでに独立していたこともありまして、なんとか暮らしを立てたのですが、徳次の母のほうは、背に腹は代えられぬと芸者に戻ったまではよかったのですが、不幸にも原爆症がでてしまい、徳次が五つを迎えるまえになくなったのであります。(17回)