朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第374回2018/1/20

 今の俊介に欠けていることはない。芸の精進は実を結んでいる。息子は、親の望む道を歩んでいる。妻と母は、家を見事に支えている。恩のある源吉の幹部役者昇進も叶い、大御所の役者から認められ、喜久雄の協力もある。
 気がかりは、俊介の体の異変だけだ。
 不思議なのは、父への俊介の思いと、出奔中の出来事が詳しく語られないことだ。