朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第375回2018/1/21

 前回の感想で、「不思議なのは」と書いたが、その疑問に対する答えが、俊介自身の口から吐露された。

 (略)私は、父が、この丹波屋の大名跡を継ごうとする席に立ちあうことができませんでした。これほどの親不孝があるかと、未だに、私は悔やんでも悔やんでも悔やみきれません。(略)

 (略)私は、あの子をこの腕の中で殺しました。(略)

 
 これが、語られなくては、俊介の復帰も、襲名も表向きのことだけになる。満員の観客の前で、本心を明かすことで、俊介は、歌舞伎の舞台へ本当に復帰し、本物の役者に近づいたと感じる。
 
 そして、本心を明かすことができた俊介の体に、本人も家族も気づかぬ病が巣くっていることを、作者は暗示していたと思う。