朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第378回2018/1/24

 美を追い求め、芸を極めつくすとこういう境地になるのであろうか。万菊の安宿での時間は表ざたにできないことであろうが、この気持ちには、ほっとさせられる。
 ただし、純粋に芸を極めつくした境地だけと言い切れないかもしれない。見世物小屋の俊介を発見した時に、万菊は、俊介の歌舞伎を憎む気持ちを察し、そこに共感していた。万菊自身にも、歌舞伎を憎む出来事があったのかもしれない。