朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第379回2018/1/25

 喜久雄の新しい人格が、見える。自分がよい役につけなかったことも、ひどい扱いを受けたことにも不平不満を言うことのないのが、喜久雄の人柄であり、舞台への姿勢でもあったと思う。
 その喜久雄が、共演役者に稽古で厳しい注文をつけている。

「ありゃ、いわゆる優等生の不幸ってやつで、(略)」

 喜久雄の苛立ちが伝わって来る。自分の芸を高めるだけでなく、演目全体、舞台全体を高める段階へ入って来たということだ。
 この新たな課題を、乗り越えるのは困難なことだろう。