朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第383回2018/1/29

 彰子の言葉を読んでいて、なんのことか分からなかった。娘の綾乃が子を生めば、喜久雄はおじいちゃんになるというのは当たり前のことだし、実際の世間でも、今やよくあることだ。だが、それを言うのが、娘の母ではない妻だというところが、奇妙と言えば奇妙だ。
 喜久雄と彰子の話からすると、綾乃の披露宴には、花嫁の父として喜久雄がいて、花嫁の母の席は市駒になる。そして、花嫁の父の妻が、花嫁の母ではないことを、恐らく出席者全員が知っているだろう。これも、一般社会から見るとやはり不思議だ。
 
 彰子は、見事に自分を抑えて、喜久雄を立てる考えを示した。マツ、春江、幸子、市駒、喜久雄の周りの女たちは揃いも揃って、賢くて気風がいい。