朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第386回2018/2/1

 歌舞伎の舞台に戻ってからの俊介は、万菊の協力があったとはいえ、自身が芸を磨いて、ここまでやってきた。今回のテレビドラマ出演は、自分から狙ったことではないが、今までの精進が実ったと見ていい。  
 忙しすぎるとしても、人気商売にとっては、「いわゆる時代の顔」になることは、願ってないことだ。しかも、その人気が本筋の歌舞伎の興行にも役立っている。
 喜久雄の方は、『阿古屋』で思う存分に、観客を魅了している。
 そして、娘、綾乃からは、「三代目花井半二郎の娘」として嫁にいかせてくれ、と頼まれた。これは、喜久雄にとって、何にも勝る喜びであろう。
 これが、喜久雄と俊介のたどり着いた「絶頂期」なのだ。

 ところで、徳次はどうしているのだろう。綾乃の結婚披露宴には、何を置いても駆け付けたいのではないか。