朝日新聞連載小説『国宝』吉田修一・作 束妹・画第338回2018/2/3

 俊介は、父と同じように健康状態に関して、全く無防備だったことが分かる。この点については、幸子も春江も注意を払っていなかったようだ。これは、喜久雄にも当てはまるかもしれない。
 医師に、重篤な症状を告げられた時の患者の心理が描かれていて、身につまされた。病の原因を、自分以外のものに求めたくなる。他に原因があるのではなく自分の今までの生活や体質に起因する、或いは原因は特定できないと聞くと、落胆よりも怒りが湧いてくる。
 俊介が、ベテランの医者に診てもらおうと、思ったのは、若い医者を信じられないというよりは、下肢の切断以外の治療に望みをかけていると感じる。